8月20日 八王子駅前寄席@東京・八王子東急スクエア12階イベントホール
客の入りは、菊之丞師と一之輔さんという顔付けだけあって、ほぼ満員。
春風亭一左 転失気
古今亭菊之丞 孝行糖
春風亭一之輔 大山詣り
〜中入り〜
春風亭一之輔 鈴ヶ森
古今亭菊之丞 鰻の幇間
■春風亭一左 転失気
おおげさな喋りかただな、と思うことはあるけれども、滑舌が悪いよりはマシ。ちゃんと声が通るからいいだろう。場面転換の緩急というか強弱をハッキリつけたほうが噺にメリハリがつく。
■古今亭菊之丞 孝行糖
初めて聞く噺。上方落語が元ネタで先代三遊亭金馬が十八番としたネタだという。冒頭、「かぼちゃ屋」かと思いきや違いました。親孝行のおかげでお上から五貫文を頂戴した与太郎。周囲の者はちゃんとした商売をさせようと、「孝行糖」と名付けた飴屋をやらせてみるが、これがまさに「馬鹿の一つ覚え」というヤツで・・・という筋。マクラで様々な物売りの売り声の真似をする。たまご、だいこん、ごぼう、いわしなど。これがまた懐かしい。サゲは何のことはないだだの駄洒落なのだが、菊之丞師の現代風に言えばラップにも似たその賑やかな飴屋の売り声が、噺全体を何やら可笑しくも楽しい滑稽話にさせた。
■春風亭一之輔 大山詣り
一之輔さんの見所聴き所満載の高座。最初のほうの熊五郎の大山に連れて行けと拝みだおす、次郎吉が熊五郎との喧嘩の件を話す、次郎吉らが熊五郎の頭を坊主にする、坊主にされた熊五郎が長屋に帰ってきて長屋の連中が嵐にあって舟で遭難をしたと大ボラを吹く、すべての語り口が圧倒的。特に熊五郎の頭を坊主にする場面。カミソリで頭を丸める仕草には思わず見入ってしまった。後半長屋の連中が舟に乗って遭難したことを語るところでは、熊五郎一人が浜に打ち上げられて助かり、長屋に帰ってきた彼がかみさん連中をみんな坊主にさせて百万遍をやっているというヴァージョン。この方が熊五郎の逆襲が際立って良かった。
■春風亭一之輔 鈴ヶ森
時間の関係からか、この噺のマクラに付き物の「動物の物真似をする泥棒」「抜き足差し足をする泥棒」の小咄をカット、ちょっと残念。でもあいかわらず物覚えが悪くドジな泥棒が、「シュウトって鼠に男という漢字をくっつけたような字ですよね。」と確かめたり、口上を覚えられなくて「pardon?」と聞き直したり、鈴ヶ森の薮の中で「だから家の中で本を読んでいた方がマシなんだよな」と呟いたり、もちろん終盤の追い剥ぎの口上がパピプペポ言葉になってしまうところなど、大爆笑のクスグリが満載。特に親分が最初は手をつなぐのを嫌がっていたのに、結局は手をつないで満更でもないような気持ちになる場面は最高!でもよく考えたら、喜多八師匠の十八番「代書屋」のパターン。そういえば師匠もこの「鈴ヶ森」を得意にしている。
■古今亭菊之丞 鰻の幇間
これも時間の関係からか、前半のいわゆる「穴釣り」の場面をカット。残念。でも菊之丞師の幇間はいい。もちろん幇間といわれる芸人さんたちにあったことはないけれど、もしあったならこんな人たちなんだろうな、と思わせるほど、可笑しくもリアル。あと、どの噺家さんもこの噺を口演するときはちゃんとやっているけど、「兜町の人だね」とか「あっ、自動車に乗っていっちゃった」とか昭和の初期を連想させる台詞があるのだけれど、師の場合もうちょっと進めて、旦那が帰った後幇間の一八が鰻屋にケチを言うところで、女中に「君ねぇ」を連発、台詞も芸人風の江戸弁ではなく昭和初期のモダンな標準語で語らせていたのがユニーク。これはきっと旦那に騙された幇間の見栄っ張りな部分を強調したのだろう、一八の性格が良く出ていた。あと同じ場面で床の間に飾っている色紙が家元の「人生なりゆき」というのには大笑い。(^_-)☆
決して菊之丞師の出来が悪かったということではないが、何よりも今日は一之輔さんの独壇場。「大山詣り」「鈴ヶ森」とも今のところは今月のベストに入る出来。